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執筆者の写真SHALONE

Vol.1 ヴァイオリニスト 尾池亜美

更新日:2021年3月7日

皆様こんにちは。シャローネ代表の水野彰子です。

MAMMA MUSE!〈芸術家ママと子育て〉記念すべき第1回目は、3歳半になるお子さんを育てながらヴァイオリニストとしてご活躍されている、尾池亜美さんをゲストにお招きいたしました。東京芸大の先輩である彼女と以前お話しさせていただくことがあり、芸術に対する想いや彼女が紡ぐ言葉に私自身とても感激しました。今回皆様にも尾池さんのお話をシェアできることを大変嬉しく思います。

緊急事態宣言が発令中のため、今回はzoomでリモートインタビューを行いました。



子育てと音楽活動の両立


水野:早速ですが尾池さんは普段、子育てと楽器の練習をどのように両立させていますか?


尾池:私は子供が10カ月になった頃から保育園にお世話になっているのですが、やはり預かってもらうまでは全然時間がなかったです。おんぶをしながら練習したり、10分ずつ練習したりと工夫はしていましたが、少し技術が衰えた感じはありました。学生の頃は自分のためにいくらでも時間を使うことができたので、まさかこんなに練習できない日が来るとは思ってもいませんでしたが、より目的意識を強くもって集中して練習できるようになったような気がします。それから、子供が寝ていて音が出せなかったりするのでスコアをよく読むようにもなりました。


水野:仕事として音楽をやっている以上、どんなに家庭が忙しくても、とにかく隙間を見つけて練習するしかないですよね。リハーサルや本番の日は、お子さんはどうされていますか?


尾池:1歳クラスまでは保育園が開いているのが9時~17時だったので、可能な限りは保育園に預けて、夜に本番の時は両親に預けたり、会場の楽屋にシッターさんや友達を呼んでみてもらったりしています。楽屋に子供がいると集中できない部分もありますが、授乳中はすぐに胸が張ってしまうので、近くにいてくれると助かる部分もあります。何より近くに居るというのはお互い安心しますよね。色々な方に助けてもらいながら活動を続けていました。


水野:私も今は保育園に入れていないので休日の主人や友人、義実家に子供をみてもらうことが多いです。周りの方のサポートが本当に有難いですよね。音楽家の女性のなかには子供ができることによって思うように活動ができなくなってしまうのではないかと不安に思っている人も多いようです。


尾池:もちろんそれまでのように動くことはできませんが、ネガティブなことばかりでもありません。どうしたって誰かの助けが必要にはなりますが、私はかえって孤独ではなくなったなと感じています。子供はそこに居るだけでみんなを笑顔にしてくれますし、子供を通して新しい出会いもたくさんあります。子供は案外たくましいですし、誰かに頼ることを気に病みすぎず、音楽家として少しでもチャンスを掴むために臆せず行動してほしいなと思います。

水野:考えすぎてしまう人も多いと思うので、先輩にそう言ってもらえると勇気が湧きますね。


尾池:そうですよね。子供が喋れるようになるまでは、2人だけの時間が長く続くと煮詰まってしまうので、オンラインでもいいので友達と喋ったり、児童館や図書館に行ってみたり、息抜きをする時間も必要だと思います。わたしも子供が小さいときは近所のママ友とお茶をしたり、友達と会ったりしていました。


 

正しい身体の使い方でジムいらず


水野:出産後、大きく変わったことや身体の悩みなどありましたか?私は抱っこのし過ぎで腕が腱鞘炎になってしまって…。


尾池:学生の時に手や腕を痛めてしまった経験があり、産後は腰痛に悩まされているので、身体の使い方については色々興味を持って勉強をしていますが、抱っこで腱鞘炎になってしまうのは親御さんが一生懸命赤ちゃんを支えようとして、親指や手首に力が入ってしまっているのだと思います。

 猿の時代から作りが変わっていない私たちの手は、親指が開いている時がリラックスしていて、物を持ったり握る時の動きは小指が主役なんです。小指を意識しながらコップを持ち上げたり買い物袋を持ってみると、違いが少しわかると思います。楽器演奏にも適用できますし、逆に子供を抱っこすることが主に腕の筋トレになって、産前より楽器が弾きやすくなりました!腰痛については、反り腰を指摘されたので毎日意識して歩いています。


水野:素晴らしいですね…!楽器以外での身体の使い方についてはあまり考えたことがなかったので、とても勉強になります。そうやって自然に近い手の動かし方や体幹を意識すればかなり変わりそうですね。今日から早速意識してみます!


尾池:正しく抱っこができればジムいらずで良い筋肉が付くと思います。それ以外で変わったことと言えば、早寝早起きができるようになったのと、前の日から次の日の段取りを考えるようになったことでしょうか。


水野:一人の時のように身軽には動けないので、段取りは必須ですよね。


 

音楽家としての尾池亜美


水野:音楽家としてのこれからのビジョンのようなものはありますか?


尾池:私は他の選択肢が無いままに音楽をはじめたので、本当に自分は音楽家になりたいのか?という自問自答の時期がかなり長くありました。その間、エレキヴァイオリンでバンドをやってみたり、ポップス・ジャズ・室内楽と声をかけて頂いたものは本当に何でもやってみて、その結果成人した頃にやっと音楽家として生きる覚悟が決まりました。その後もなんでもやってみようという精神で色々なプロジェクトに参加させて頂きましたが、幼少期からの練習の貯金を使い果たしたなと感じているところです。

 コロナの影響も大きいかもしれませんが、自分にとって「貯め」の期間に入ろうとしています。積み上げる時間が欲しいと思っています。


 2020年4月から母校の芸大で後進の指導もしているのですが、今の学生はコンクールを受ける人がとても多く、勿論それ自体は目標がはっきりとあって素晴らしいことなのですが、半年間に勉強できるレパートリーが極端に少なくなってしまうことをどうにかできないかと考えています。

 楽器を弾くことだけではなくて、その曲の背景や歴史的な位置付けなどをしっかりと文章にして説明できないと『自分はアーティストだ』と胸を張って言えないのでは?と思うんです。

 例えば現代美術などは文章と密接なので、買い手とも結び付きやすく、アートとして先に進んでいるのではないかと考えています。そういう部分をみんなで学んで、知識をシェアできるようなクラスを育てていけたらなと思っています。


水野:素敵ですね。確かに学生の頃は上手に演奏することに興味を注ぎがちですが、そういう知識も同時に必要ですよね。その曲について深い理解があれば、演奏やアウトプットの仕方がまた変わってきますね。


尾池:私たち人間は生きる上で物理的にも精神的にも沢山のエネルギーを使っています。コロナ禍になって、今まで自分は音楽や時間や人からエネルギーを貰ってばかりだったんだなと気付きました。そりゃあ活動が阻まれて当然だな、という思いです。

人間は実際にピンチに直面しなければなかなか変わることができません。今がそのチャンスだと思っています。

 未来のための創造・生産ができるように、もっともっと人間にしかできないことにフォーカスを絞り、知識や経験を独占せずたくさんの人とシェアできる音楽家になりたいです。




 

尾池亜美 Ami Oike


東京を拠点に、ソロや室内楽における時代を超えたレパートリーに幅広く取り組むヴァイオリニスト。日本音楽コンクール第1位、聴衆賞受賞。マンチェスター国際ヴァイオリンコンクール優勝、委嘱作品最優秀演奏賞。東京藝術大学附属高校、同大学を経て渡欧、スイス、イギリス、オーストリアで学ぶ。現在東京藝術大学講師。紀尾井ホール室内管弦楽団、アミティ・カルテット、Ensemble FOVEメンバー。CD作品としてフランクとサン=サーンスのソナタ「French Romanticism」、バッハとバルトークの無伴奏作品集「A」、そしてEnsemble FOVEと共作のロマ音楽を集めた「ZINGARO!!!」を発表。


尾池亜美 公式サイト: amioike.art


 

第1回ゲスト:尾池亜美(ヴァイオリニスト・東京芸術大学講師)

インタビュアー:水野彰子(ピアニスト・SHALONE代表)

ライター:岩崎花保(フルーティスト・WEBライター)

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