top of page
検索
  • 執筆者の写真SHALONE

Vol.2 ソプラノ歌手 市原愛

 MAMMA MUSE!「芸術家ママと子育て」インタビュー第2回は、ソプラノ歌手の市原愛さんをお迎えしました。現在8歳になるお嬢さんを子育てしながら、多くのコンサートやオペラに出演されてこられた市原愛さん。愛情溢れるお話に、笑顔と幸せを頂いたインタビューです。そして、これから妊娠・出産を考える女性へ、ご自身の抱える想いやご経験を元に、心強いメッセージを頂きました。

 

水野:愛さんとは2019年に京都のロームシアターでご一緒させていただきました。久しぶりにお会いできてとっても嬉しいです。お嬢さんはおいくつになられましたか?


市原:8歳になりましたよ~!女同士らしく、ああだこうだ言い合いなんかもするようになりました(笑)

水野:今日は愛さんとお嬢さんのお話を伺えるのがとても楽しみです。早速ですが、会社員ではないこの職業は、産休育休制度がないですよね。妊娠中はどのくらいまでお仕事されていましたか?

市原:子育ては日々新しいことの連続で、実は当時のことをなかなか思い出せなかったのですが、彰子ちゃんにこのインタビューのお話を頂いてから改めて昔の予定を振り返ってみたんです。妊娠してから出産まではツアーなどで10都道府県をまわっていて、全部で29公演ありました。今のコロナ禍の状況からすると、とても信じられないですよね。出産する1ヶ 月前まで歌っていました。


水野:それは物凄いスケジュールですね!それだけ活動されていたということは体調も良かったんでしょうか。


市原:私はつわりも酷くなかったですし、妊娠中はむしろ、それまでよりも調子が良いんじゃないかと思うくらいに声が安定していました。血の巡りがよくなっていたのかな?十分な発声をしなくても自由に声が出てしまうとゆう感じでした。流石に、臨月でお腹が本当に大きくなっていた頃は、物理的に息が深く入りませんでしたが。


水野:私も8ヶ月あたりからうまく息が吸えず常に息苦しさがあったので、その状態で舞台で歌えるなんて本当にすごいです。歌手の方は出産後にそれまでと感覚が変わるという話を聞いたことがあるのですが、愛さんは出産後、身体が変わったなぁと思うことはありましたか?


市原:出産後は骨盤の緩みで身体の支えを失ったような感覚がありましたが、初めてママになって、慣れない子育てと向き合うことにとにかく必死だったので、そこまで深刻に考えていませんでした。これは私自身の性格によるものですが、出産という大仕事をした訳ですから、身体に負担がかかるのは『当たり前』!そのうち自然に元に戻る!と、わりと気楽に構えていました。出産前と同じでなければいけないと考えすぎると、理想と現実の大きなギャップがストレスになりそうですよね。


水野:自分の理想のペースで生活することはほとんど無理ですもんね。他に何か変化はありましたか?


市原:これは現在進行形なのですが、貧血気味です。母乳をあげていると、ある程度は仕方がないのかもしれませんが、私は娘が3歳をすぎる頃まで授乳をしていましたから…!


水野:3歳まで授乳されていたのはすごいですね!


市原:最後の方はこちらが授乳をしているつもりでいたにも関わらず、途中で「お茶ちょうだい。」とか言われたりもしていました(笑)。きっと母乳を飲んでいたのではなく、スキンシップだったんじゃないかな。


水野:面白いですね(笑)。きっとママとの肌のふれあいは、とても良い安心感があるのでしょうね。

 

オペラのリハーサルで一緒にイタリアへ


水野:保育園にはいつから入られましたか?


市原:娘は保育園にいれず、幼稚園が始まる3歳までずっと一緒にいました。幸い周りの協力もあったので、基本的にはお仕事の現場に連れて行くことが出来ていたんです。また、妊娠する前から決まっていたものの一つに、イタリアの歌劇場の来日公演がありました。そのリハーサルで、娘が7ヶ月の時にはイタリアへも一緒に行ったんですよ!十数時間のフライトは、終始抱っこ紐を外さずに何とか乗り切りました。


水野:7ヶ月でイタリアまで一緒に行かれたなんて凄すぎますね。イタリアでの生活はどうでしたか?


市原:イタリアではどこに行っても子連れを歓迎してもらえましたね。ハイハイ時期の娘が過ごしやすいように、そしてちょうど離乳食が始まったばかりだったことなどを配慮して、劇場側がキッチン付きのお部屋にベビーサークルなどを用意してくれていたので、私は異国での苦労を味わうことなく、リハーサルに集中することが出来ました。ヨーロッパは、仕事をしながらの子育てにも理解の得られる環境だなぁと実感しました。


水野:素敵な環境ですね。それにしても3歳まで保育園にお世話にならずともお仕事されていたのは凄いと思います。


市原:彰子ちゃんは子供を預けた方が仕事をしやすいと感じますか?一緒にいると集中しにくいかな...?

水野:私は本番の日はどうしてもドタバタしてしまうので、最近は預かってもらうことが多いです。娘が2、3ヶ月の頃までは授乳のタイミングも近いので、楽屋など近くにいてくれると安心でした。ただ本番の日は、現地のピアノに慣れるための練習、共演者とのリハーサル、着替えやメイクなど本当に時間がタイトなので、今は預けられた方が集中できるなぁと思うようになりました。この辺はママの性格やそれぞれの楽器でも個人差がありそうですね。


市原:預けた方が肉体的にはラクですよね!ただ私はもともと一人でいるのが苦手なタイプなので、娘が一緒にいてくれた方が落ち着くし、舞台の上の限られた時間だけ思いっきり集中する方が合っているようです。


水野:顔を見るとほっとしますし近くにいてくれるのも良いですよね。出産をしてから以前のように働けなくなったと感じることはありますか?

市原:オペラ出演は控えるようになりましたね。妊娠前から決まっていた3つのプロダクションは、娘が小さかったので出演することができました。幼稚園が始まってからは、毎日の送り迎えに加えて行事や習い事もあって、稽古期間など拘束の長いオペラは難しかったです。ここ数年は自然な流れでコンサート中心の活動となっていましたが、娘も8歳になり自分でできることが増えてきたので、今年は久しぶりにオペラの現場に復帰する予定です!娘も応援してくれているので、精一杯努めたいと思っています。


水野:愛さんのオペラ、観に行きたいです!楽しみにしています。お子様が幼稚園に入るまで、家での練習時間確保のために何か工夫はされていましたか?


市原:ハイハイをするまでは、常に抱っこやおんぶをしながら歌っていましていましたよ!練習の途中でぐずられるよりは、最初から抱っこ紐でくっついている方が、効率が良かったです(笑)。動き始めてからは、2メートルくらいのビニールプールに人形やボールを入れ、その中で遊ぶ娘を横目に練習をしていました。転んでも痛く無いし、いつもご機嫌でいてくれたのでオススメです。


水野:たしかに安全だしボールプールはとっても楽しそうで良いですね!集中力や体力勝負の演奏家ですが、夜泣きや睡眠不足のときはどう乗り切りましたか?

市原:ほんとうに、一体どうしていたのでしょうね…?!授乳の間隔がなかなか空かず、最初の数ヶ月はほとんど寝ていなかったと思います。3歳すぎまで授乳は続きましたから、慢性的な寝不足が身体に染み付いてしまったのか、未だにまとめては眠れません。ただ、娘にとことん付き合おうと決めていたので、私の子育てはこういうものなんだと割り切って過ごしました。それに、どんなにハードな本番の翌朝でも容赦なく「ママ公園行こ!」と言われたりして、随分鍛えられました。


水野:そうですよね。私も本番後はとにかく沢山寝るというのが無くなったのが、以前と特に変わった部分かもしれないです(笑)。逆に、ご自身が音楽家ママでよかったなぁと思うことはありますか?


市原:最近のことになりますが、コロナによる自粛期間中のある日、娘が「ママ、『ミル テの花』ってどんな曲?」って聞いてきたんです。どこで知ったの?!とビックリしていたら、娘が読んでいたクララ・シューマンの伝記の中に、ロベルトから『ミルテの花』をプレゼントされたことが書いてあったそうで。その場で第1曲目「献呈」の弾き語りをして、彼女の想像を、音楽という形にして聞かせることが出来ました。これは私の自慢のエピソードだし、娘にとっても刺激的な経験になったようです。

(♫市原愛さんのミルテの花はこちらの動画でも聴くことができます。→https://youtu.be/to1-yHcqv9o)


水野:素敵すぎるエピソード!さすが、愛さんはピアノもとてもお上手ですもんね!お嬢さんの描くイメージや世界も、より鮮やかになっていきそうですね。

 

ママ自身の幸せも大切


水野:いまお嬢さんは何か習い事はされていますか?また、楽器やクラシック音楽をやってほしいと思いますか?


市原:ピアノとクラシックバレエ、英会話、学習塾に通っています。ピアノは、親子で連弾を楽しむことが出来るようになってきた所なのですが、音楽に限らず他にも色々と興味は尽きないようなので、見守っていきたいと思っています。


水野:愛さんが子育てされる上で大事にされていることは何ですか?


市原:スキンシップをたくさんとること、愛情を言葉にして伝えること、そして完璧なママを見せるのではなく、弱音を吐いたり失敗もする、そんなありのままの私が成長をする姿を見せることでしょうか。それから子供にとって、小さな達成感の積み重ねがとても大切だと思っているので、娘が何かを頑張った時には、私が素直に喜ぶようにしています。親バカに見えてしまうこともあるとは思いますが、娘はそれが嬉しいみたいです。


水野:たしかに、完璧なママを目指そうとしないで、子供と一緒に成長していけたらいいなぁと思います。達成感を知ると、次もまた頑張れそうですよね。 愛さんは今後、アーティストとして、又ママとして、目指す姿などはありますか?


市原:やっぱりママ自身が幸せを感じていないと、子供の笑顔につながらないと思うんです。自己肯定感を上げて、日々生活できたらいいですよね。演奏家は自己肯定感を高めることが得意ですもんね ?!(笑)


水野:分かります、自己肯定感高めるの得意です(笑)。


市原:それから、今はSNSで様々な情報が溢れかえっていますが、憧れや理想の世界ばかりに惑わされず、目の前にある自分の幸せを噛みしめていきたいです。

水野:これまで子育てと仕事を両立して来られた経験から、今後妊娠・出産を控えていたり、考えている方へ、メッセージを頂けたらうれしいです。


市原:まずお伝えしておきたいのは、仕事をしながら子供を生み育てていることが何かひとつのステータスとして捉えられがちですが、実際は本当に大変です!周りに迷惑をかけてしまうことも多いし、自分のことはとにかく後回し…。特に私はシングルマザーですから、大きな決断をする時のプレッシャーや、将来への漠然とした不安を常に抱えています。

 ただ…実は私、一度流産を経験しているんです。それまで自分の身体の健康について疑ったことがなかったので、とても大きなショックを受けました。子供が生まれてくることがどれだけ神秘的かつ奇跡的であるか身を以て経験しているので、娘に出会えた運命に、言葉では言い表せないほどの感謝をしています。娘は私の生き甲斐そのものです。こういった感情や想いは、実際に子供を生んでみなければ味わうことのできなかったもので、私の場合は、音楽表現の部分で深みを増すことにつながったと思います。

 今は女性にも様々な選択肢がありますから、必ずしも母親になる道を選ぶ必要はないですし、まずはご自身の本当の幸せを見極め、大切にして頂きたいです。もしその答えが、仕事と子育ての両立だという場合には、心から応援したいです!!


 

ソプラノ歌手 市原 愛 Ai Ichihara


神奈川県生まれ。東京藝術大学を経て、ミュンヘン国立音楽大学大学院を修了。その後プリンツレゲンテン劇場、バイロイト辺境伯歌劇場など欧州各地の劇場やオーケストラ公演に客演。08/09シーズンは、アウグスブルク歌劇場の専属ソロ歌手として年間約70公演に出演。国内では、N響、都響、読売日響等との共演やリサイタルなどで活躍。13年トリノ王立歌劇場日本公演でヴェルディ「仮面舞踏会」オスカル役、15年錦織健プロデュース・オペラVol.6「後宮からの逃走」ブロンデ役に出演。19年にはフィルハーモニー・ド・パリ(フランス)で行われた「久石譲シンフォニック・コンサート」のソリストを努め、その歌唱力で聴衆を魅了。『NHKニューイヤーオペラ』や『題名のない音楽会』などメディアにも多数出演。

オフィシャル・ホームページ: http://www.aiichihara.com/

 

写真2枚目 リハーサル合間@東京オペラシティコンサートホール

写真3枚目 パリ・ルーヴル美術館前

写真4枚目 リサイタル後のサイン会

写真5枚目 歌とバレエで共演

写真6枚目 マリインスキー・バレエ来日公演の舞台@東京文化会館

 

第2回ゲスト:市原愛(ソプラノ歌手)

インタビュアー:水野彰子(ピアニスト・SHALONE代表)

ライター:岩崎花保(フルーティスト・WEBライター)


閲覧数:1,770回1件のコメント
bottom of page