皆様こんにちは、SHALONE代表の水野彰子です。4度目の緊急事態宣言下で始まった東京オリンピックで、賛否両論あったと思います。開会式では、運営側や関係者の方々が行われてきた準備を考えるとどれだけの苦労があってここまで来られたのだろうと思いました。また、世界の選手の活躍を見るだけで心から震え、感動し、勇気をもらいます。もちろんこの先の不安は沢山ありますが、このようなギスギスした世の中でも、スポーツや音楽などで人々の日常が少しでも豊かになることを願う日々です。
さて、今回MAMMA MUSE!「芸術家ママと子育て」インタビューvol.6のゲストには、ピアニストとして国内外において大活躍の岡田奏さんをお迎えしました。今年ご出産され、現在5ヵ月になるお子様との生活を楽しまれながら、音楽に溢れた日常を送り、舞台に立たれるお姿にとても勇気を頂きます。「初めて」だらけの子育ては自分自身を格段に成長させてくれる、と前向きなメッセージが印象的です。ぜひご覧ください!
水野:奏さんとお話しするのは初めてですよね。いつもSNSでご活躍を拝見しています。今日はお話伺うを楽しみにしていました。よろしくお願いします。
岡田:こちらこそ楽しみにしていました。今日はよろしくお願いします。
水野:そしてご出産おめでとうございます。まだお子さんは小さいですよね。何ヵ月になられましたか?
岡田:ありがとうございます。今5ヵ月になりました。生まれた時は3800グラムとすごく大きかったです。
水野:おぉ~かなり大きいですね!お腹の中でしっかりと育ったのですね。
岡田:お腹の中にいる時から大きくて、妊娠中たくさん歩いたりしたんですが予定日までに陣痛が来なかったら促進剤を打とうと決めて、その日に打っての出産でした。陣痛の痛みが尋常じゃなくて、最後の方は助産師さんに怒っていました(笑)。
水野:お腹が大きい頃もかなり演奏されていらっしゃいましたよね。
岡田:臨月になるまで弾いていました。妊娠中最後の本番はチャイコフスキーのコンチェルトだったのですが、お腹の重みで支えがしっかりできていて結構弾きやすかったです。逆に出産後はなかなかお腹に力が入らなくてふわふわしていました。
水野:わかる!私もそうでした。弾くことはできても腹筋の感覚が戻るまでは結構時間がかかりますよね。復帰は産後何ヵ月くらいでしたか?
岡田:1ヵ月で舞台に戻りました。
水野:わぁ~2ヵ月くらいしか休んでないですね。
岡田:そうですね。強制的に体を戻したという感じでしょうか。元々体は頑丈な方なので出産前も出産後も結構元気だと思います。でも3ヵ月目で実家に帰った時、それまでの疲れがどっと出ましたね。
水野:赤ちゃんがいる生活も馴染んできて疲れが出る頃ですかね。授乳の間隔や睡眠時間も少し長くなってくるけど、やっぱり寝不足が続いてるんですよね。
岡田:最初は「睡眠ってなんだったっけ…?」と思うぐらい寝られませんでした。練習しようと思ってもどうしても眠かったりしますよね。自律神経も乱れていたんだろうなと思います。
水野:そんな中でソリストのヘビーなレパートリーを弾いちゃうんだから本当に凄いです。赤ちゃんがいて、どのように練習時間を確保されていますか?
岡田:子どもが寝ているときと、日中の2~3時間預けている間に集中してやっています。やっぱり側に子どもがいて声が聞こえると気になって集中できないので…。でも最近は1人で遊んでくれるようになったので、隣で遊ばせて私は練習、みたいなこともできるようになりました。
水野:寝てる間の「あうー」みたいな寝言でも、起きるかな?って弾くのやめちゃうんですよね。私も保育園に預けるまでの練習は毎日そんな感じでした。本番の日はどうされていますか?
岡田:地方での本番は、夫や義母にも手伝ってもらって子どもも連れていきます。本番の衣装と子どもの荷物を合わせると家出レベルの量になるので、一緒に行ってくれる人がいないとちょっと厳しいです。それに息子は哺乳瓶があまり好きじゃないみたいで、私も胸が張ってしまうと痛いので、休憩中におっぱいをあげられると自分も助かります。コンチェルトの時に主催者さんが楽屋を2つ用意してくださったこともありました。子どもと過ごすための楽屋と、1人になれる楽屋があり、本番少し前からは集中する時間を作りたいので本当に有難かったです。都内での本番は1人で行きますね。
水野:安心感を優先するか、集中力を高める方を優先するかというのは難しいけど、上手にバランスを取って演奏されているんですね。ここまでお話を伺う限り、お子さんが生まれても活動内容はそこまで変わっていないような印象を受けましたが、何か意識していることはありますか?
岡田:子どもがいても仕事の方針は変えないとずっと前から決めていました。もちろん全く同じように動くことはできないけど、一度緩めてしまうとそのままズルズル楽な方向に行ってしまいそうで怖くて…。結婚をして予定通りにいかないことが増えて、子どもが生まれてより一層独身の頃とは違う生活になったけど、臨機応変に動きつつ自分のやりたいことも諦めないでいたいです。
水野:音楽を仕事にしている我々って、勿論それでお金を稼ぐのも大事だけど、ライフワークでもあるんですよね。
岡田:本当にそうですよね。家族も大事だし、自分も大事。だからこそ家族の理解が無いとできないなぁとも思います。
水野:今までのインタビューで夫婦2人とも音楽家の方がいらっしゃいましたが、お互いのスケジュールでどちらを優先するかとか土日どちらも仕事になることもあるし、その辺は少し大変そうでした。息子さんは音楽は好きそうですか?
岡田:まだハッキリとはわかりませんが、モーツァルトとブラームスは好きみたいで、モーツァルトを練習しているとすごく大人しくしてくれてます。
水野:やっぱり赤ちゃんモーツァルト好きですよね?!うちは車の中で泣き始めた時にモーツァルトを流したらすぐ寝る気がしてました。ベートーヴェンがかかり始めちゃったら慌ててモーツァルトに戻したり(笑)。
岡田:同じだー!ベートーヴェンはめっちゃ泣きます。面白いですよね。やっぱり何か感じてるのかなぁ。あとうちの子はなぜかチャイルドシートに乗るとうんちするんですよね…揺れがちょうどいいのでしょうか。もう何回シートを洗ったかわかりません。
水野:えーなんでだろう!振動がお腹に響くのかな(笑)?逆にうちは車の中ではほとんど無いかもしれないなぁ。大きくなったら音楽を習わせたいと思いますか?
岡田:本人がやりたいのであれば習わせてあげたいです。ピアノは自分で教えたら厳しくなってしまいそうだから誰か人にお任せします(笑)。きっと練習に付き合ったら色々言っちゃうだろうけど。
水野:奏さんはフランスに留学されてましたが、今後はずっと日本にいらっしゃる予定ですか?もちろんご家族のことがあるので自分では決められないことだとは思いますが…。
岡田:そうですね、私は高校生の時からフランスに住んだので、友人もたくさんいるし、いつでも戻りたい気持ちはあります!家族の都合ももちろんありますが、もし今後フランスにも行けるような機会があるなら、子どもも一緒に日本とフランス半々の生活とかもいいなぁ~と思います。子どもにとっても、向こうの文化を知ることは将来的にもすごく良いと思うんです。
水野:素敵ですね~。私も旅行とか短期間でいいので、家族でヨーロッパに行きたいとずっと夢見てます。奏さんはお子さんを出産してから、ご自身の思いや考えに何か変化はありましたか?
岡田:ピアノを演奏できることへの感謝の気持ちがとても大きくなったのと、愛情の意味がより理解できるようになった気がします。あとは昔より忍耐強くなったかもしれません。自分のペースでは動けないので。子供におっぱいをあげながら「あのフレーズはどうやって弾こうかな」と考えていたり、本や絵を見ているときも今の自分がどう感じるかというのを考えています。母親の部分をどんどん音楽に反映していけたら嬉しいです。
水野:ママになられて奏さんの音楽により一層深みが増していきますね。これからのご活躍もとても楽しみに応援しております。最後に、これから妊娠・出産を考えていたり控えているアーティストに向けて奏さんよりメッセージを頂けましたら嬉しいです。
岡田:子育てしながら活動をするのは簡単ではありません。実際本当に大変です!でも、私にとっては愛する家族と共に過ごせることも、音楽と生きることも、どちらも大切です。子どもを産んでから、沢山の「初めて」に出会いました。こんなに愛しい・守りたいという気持ちも、慢性的な寝不足や体の疲れも、忍耐も、全部初めてです。子どもの毎日の成長は本当に本当に可愛くて楽しくて!その沢山の新しい経験が私たちを格段と成長させてくれますし、結果的に音楽家としての私の表現の幅も広がりました。「ママ」にならなければ絶対に経験できない、表現できないことです。
一番と言っていいほどこれまでと変わったことは、時間の使い方です。今までは自分の好きなように1日を使えていましたが、子どもはいつ泣くか、いつ具合が悪くなるかも分からない。そんな中で隙間時間に練習をしたり、楽譜を見たり、家事を進めたりしています。私はどちらかというと、決めたことはその通りに進めたい頑固な方でしたが、今は予想外のことばかりで(笑)、臨機応変に対応することができるようになりました。
そして、今までと変わらずステージに立てていること、演奏できることにこれまで以上に感謝しています。周りのサポートがあってこそで、1人ではないということを強く感じます。今は行政のサポートも沢山あるので、かなり助けてもらえると思います。ママになっても、1人の女性として、自分のやりたいことは貫いていく。自分が倒れたら子どももみんなも困っちゃうので自分も労って、周りに感謝して、楽しく、笑いながらみんなでやっていけたら幸せです。これから出産を考えている音楽家の方たちに心からのエールを送りますね!
ピアニスト 岡田 奏 Kana Okada
函館市生まれ。15歳で渡仏。パリ国立高等音楽院のピアノ科と室内楽科、修士課程を最優秀で修了し、第3課程アーティスト・ディプロマ科を経て、ヨーロッパと日本を拠点に活動している。
演奏活動はフランス、ドイツ、イタリア、モロッコ、ポーランド、スペインなどのヨーロッパ各地、韓国、アメリカやベネズエラに及ぶ。フランスとベルギーではフランク・ブラレイと共演している。これまでに、ベルギー国立管弦楽団、シモン・ボリバル交響楽団、読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、中部フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、兵庫芸術文化センター管弦楽団、広島交響楽団等のオーケストラと、マティアス・バーメルト、セバスティアン・ヴァイグレ、マリン・オールソップ、ポール・メイエ、ヘルムート・ライヒェル・シルヴァ、クリスティーナ・ポスカ、小林研一郎、尾高忠明、広上淳一、山田和樹、山下一史、山田和樹、大井剛史、円光寺雅彦、西本智実、三ツ橋敬子、田中祐子、粟辻聡等の指揮者と共演。
NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」および「きらクラ!」、「名曲アルバム」をはじめメディアへの出演も多数。2018年、デビュー・アルバムとなる『Souvenirs-フランス作品集』をトリトーン・レーベルよりリリース、好評を得ている。
2013年第8回プーランク国際ピアノ・コンクール第1位、2013年第12回ピアノ・キャンパス国際コンクール第1位を獲得したほか、2016年エリザベート王妃国際音楽コンクールのファイナリスト。一般財団法人地域創造による公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)平成30・31年度登録アーティスト。
第6回ゲスト:岡田 奏(ピアニスト)
インタビュアー:水野 彰子(ピアニスト、SHALONE代表) ライター:岩崎 花保(フルーティスト、WEBライター)
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