こんにちは。シャローネ代表の水野彰子です。東京は再び緊急事態宣言が発令され、文化芸術もイベント制限が行われ、辛い時期を迎えました。同じ苦境に立たされている仲間と手を取り合って、今できることや情報をシェアしていけたら良いなと思います。
MAMMA MUSE!「芸術家ママと子育てインタビュー」第3回はピアニストであり、年子のお子様のママである前田祐里さんです。名古屋在住の前田祐里さんには、zoomでのリモートインタビューでお話を伺いました。年子の子育てならではの目まぐるしいの日々の中においても、ご自身の成長や挑戦を止めない彼女の強さに勇気をもらいました。オープンマインドで聡明かつパワフルな祐里さんの日常をぜひご覧ください。
水野:今日はお互いに、子供のう◯ちによる波乱の幕開けでしたね(笑)。
前田:ほんとね。絨毯にされちゃって、さっき保育園に送り届けてきたんだけど、今もすごい臭いの中のzoomミーティングだよ!
水野:(笑)。うちも今日に限ってオムツから盛大に漏れて、保育園へ送るのが予定より遅れてしまったので、このインタビューを少し遅らせてもらいました。かっぴー(ライター)ごめんね。
岩崎:いえいえ、大変そ~う!(笑)
水野:祐里さんと初めてお会いしたのは髙松の公演でしたよね?お腹が大きかったですよね!妊娠何ヶ月くらいだったのでしょう。
前田:そうだね!懐かしい~。あの時1人目の子がお腹の中にいたんだけど、その2週間後に出産しました。
水野:そんなにギリギリだったんですか?!臨月で地方のお仕事をされていたなんてすごいなぁ。
前田:1人目は予定通りの出産だったので直前まで仕事ができたんです。2人目の時は自宅でレッスンをしていたら急にお腹が痛くなって、病院へ行ったら即入院、そのまま帝王切開で出産になってしまったから何の準備もできませんでした。予定より1か月くらい早く出てきてしまったので最初は保育器に入っていたけど、今はすくすく大きくなっています。
水野:レッスンからそのまま…!大変だったんですね。出産は何が起きるかわからないですね。
前田:本当にそうだね。妊娠も、神のみぞ知るだと思う。私は1人目の子供をなかなか授かることができなくて、4年間不妊治療をして顕微授精までやっても何度かダメで、流産も経験しました。でも何回目かで妊娠でき、1人目を出産しました。ところが2人目は1年経たずで知らないうちに自然妊娠したんです。お医者さんに自然妊娠は無理かもと言われていたので、すごく驚きました。
水野:凄い…!1人目を不妊治療で授かって、2人目はすぐに自然妊娠されたというお話、私の周りでも聞いたことがありました。本当に神秘ですね。祐里さんのお子さんはそういうわけで年子なのですね。
前田:そうなんですよ。2歳7か月の娘と、1歳3か月の息子です。
水野:年子って聞くと大変そうなイメージがあります。でも逆に、大きくなったら子育てを一気に卒業する時が来るのかな。
前田:そうそう、たまに「計画的に年子にしたんですか?」と聞かれるんだけど、そうではないんです。中には仕事するために年子で産んだのかと言われて、不妊治療のこともあったので少し複雑な心境でした。1人目も帝王切開だったから本当は子宮が元に戻るまでもうちょっと間をあけないといけなかったんですよね。とにかく思うようにはいかないのが妊娠、出産ですね。
水野:子供は神様から授かるという言葉通りだと思います。今日は、年子の子育てのリアルなお話をたくさん伺いたいのですが、やっぱり年子を育てるのは大変ですか?
前田:めっっっっっちゃくちゃ大変です!上の子はだいぶ意思疎通ができるようになってきたとはいえ、2人ともまだ赤ちゃんなので家の中は常にカオスです。ここ3日以内の出来事ですが、上の子が保育園で胃腸風邪をもらって、それが家族間でうつってしまい、もう地獄絵図でした。
水野:おぉ、それは大変なやつですね。
前田:子供が1人の時はまだどうにかなったのですが、2人同時になってしまうともう手が回らないです。熱だけならまだいいですが、胃腸風邪は私自身も罹るとトイレから離れられないし子供は泣くしで…もう私も泣きそうでした。
水野:もし自分がそういう状況になったらちゃんと対処できるか不安になってきました。
前田:パニックになるから準備と対策は今からしておいたほうがいいよ。彰子ちゃんのお子さんももう保育園に預けているんだよね?
水野:はい、今7ヶ月ですがこの4月からお世話になっています。娘も毎日楽しそうだし、とても有難いですね。でもこれから風邪とかもらってきたりもするんだろうな。
前田:外に出るようになるとやっぱり菌をもらう確率が上がるからね。子供に熱があるけど本番とかでどうしても面倒が見られないときは、病児保育を受けられたら安心だよね。病気の回復途中で通常の集団保育を受けることが難しい子どもを預かってもらえる保育サービスだよ。もちろん夫や両親に見てもらえたら一番良いんだけど、誰にも頼めない状況もあり得るし、近くで対応してくれるところをあらかじめ探しておくと安心だと思うよ。私も知らなかったんだけど、病児保育に預けるためには病院の診断書が必要だったり、荷物も細かく指定があったりしてあたふたしちゃうから、どういう順序で動くかシミュレーションしておくのがおすすめだよ!
水野:へぇー!病児保育って登録すればいいだけじゃないんですね。その時パニックにならないように、シミュレーションしておかないといけないですね。
ギリギリのスケジュール
水野:ゆりさんはピアニストとして演奏される以外にも色々お仕事されていますよね。具体的にどのようなお仕事内容ですか?
前田:大学と個人でドイツ語を教えているのと、ピアノのレッスンもしています。
水野:語学の先生もされているんですね。そうだ、翻訳もされていらっしゃいましたよね。そんなお忙しい中、ピアノ協奏曲のソリストまでされて、本当に凄いです。ぜひ練習時間の確保の仕方を教えてください。
前田:練習は夜の2時間に集中してするって決めています。子供を保育園へ連れて行って9:30~11:00に語学のレッスンをします。終わったら買い物へ行って自分の昼食と夕食の支度をして、13:00~17:30までピアノのレッスンをします。それから子供を迎えに行って19:00にご飯を食べさせて、お風呂に入れ、20:30に寝かせています。子供と一緒に夕食が食べられればいいんだけど、2人に食べさせていると自分も一緒に食べる余裕はなかったりするので、寝かせた後にやっと夕飯ということも多いです。そして練習は21:00~23:00です。うちは夫も音楽家なのですが、家事も育児もよくやってくれるのでとても有難いです。
水野:聞いただけで目が回りそうです。ご夫婦ともに音楽家だと、土日はどうされていますか?
前田:基本的には先に予定が入った方を優先しています。もし2人ともに大切な本番が入ったり緊急の場合は両親や妹に助けてもらうこともあります。土曜保育もたまにお願いしているのですが、普段よりお友達も少ないし外遊びもなくて寂しいのか、土曜はあまり行きたがらないんです。出来れば一緒にいたいなと思っていたところです。
水野:仕事をしないと生活できないし子供のために頑張っているんだけど、子供はお母さんと一緒に居たいだろうし…バランスが難しいですね。
前田:本当にそうですね。娘と同じくらいの年の子にピアノを教えているときに「自分の子にもこのぐらいしてあげられたらなぁ」と、母親として本当にこれでいいのか?と思ってしまうこともあります。
水野:確かにそうですよね。そしてご夫婦でも休みが揃うことがなかなか無さそうですね。
前田:はい。一度休みの日に私1人で子供2人を東山動物園に連れて行ったことがあるのですが、ベビーカーに乗りたがらないから下ろすと走って行ってしまうし、2人同時に抱っこを要求してきたりで、結局動物は2~3種類しか見れずに帰ってきました。
水野:大変そう!子供は常に全力だし、こちらの思うようには動いてくれないですもんね。
前田:子供が1人だけだったりお父さんも一緒だったらもう少し余裕があったかもしれないですが、我が家は常にどちらかがやれることをやるというスタイルなので難しいですね。お風呂は上の子が大きくなってきて以前よりは慌ただしくないですが、小さい子は一瞬目をはなしただけで溺れることがあるので自分は目を開けたままシャンプーしたり、お風呂上りに自分は濡れたまま子供の保湿剤を塗ったりしていました。
水野:こうやってみんなたくましいお母さんになっていくんだなあ…。
前田:うちは生活面では夫にとても助けられています。この前ふと気付いたことがあって。うちには常に新しい絵本がたくさんあるんです。それは夫が2週間に1回、図書館で絵本を16冊借りてきてくれていたんです。子供たちもそれを楽しみにしていますし、料理もできるし、子供のおむつを替えるのも上手です。本当に感謝しています。
水野:素敵です。旦那様あってですね。うちも私の仕事が土日の時には旦那さんが子供と一緒にいてくれますが、家事も育児もできるので本当に有難いですね。共働きの時代、ママと同じくらい色々できるパパは増えているでしょうね。
前田:このコロナ禍で在宅ワークになり、初めて育児の現実を目の当たりにした男性というのはきっとたくさんいると思います。今までは外で同じくらいのお子さんがいる男性に育児の話をしても、ピンとこない方が多かったけどやっと話が通じるようになった!と夫が嬉しそうにしていました。実際育児に参加したくても、会社に男性の育休制度が浸透していなかったり、商業施設のオムツ替えスペースが女性トイレにしかなかったりと社会的にやりにくい部分もたくさんあると思います。我が家のような共働きの夫婦は増えていますし、協力して子育てができる環境になるといいですよね。
水野:一生懸命子育てされながらご夫婦共々音楽家としても素晴らしくて、私も頑張りたいと思います!
前田:でも私、いつからかこういう大変な面って言わない方が仕事にとっていいのかなと思うようになってしまったんです。音楽家は夢を売っている面もあるから、子育てを頑張っていることを言いにくい部分もありますよね。実際に「◯◯さんは小さいお子さんが居て忙しそうだから、お仕事お願いしないほうがいいかな」って悪気無く思ってしまっていることに気が付いたんです。自分がそう思われたらショックなのにね…。
水野:うーん、私もそれは思うことがたくさんあります。祐里さんと同じく、ステージに立つ人としてはきっと綺麗な部分を見せなきゃいけないんだろうなとも思います。でも自分としては本当にリアルな声を聞きたいとも思います。それにママになっても変わらず素晴らしいアーティストって沢山いますよね。私が起業した理由がそこにもあって、ママになっても精力的に動くことはできるし、仕事に関して妥協することはないっていうのを証明したいと思ってました。それが身近にいるママになることへの不安があるアーティストに「私もやれる!」って少しでも思ってもらえたらいいなと。先の仕事など心配がある人もきっといると思いますが、きっと大丈夫!ってみんなで言えるようになりたいですね。
前田:インスタグラムに載せられる綺麗な写真なんて日常の一部を切り取っただけで、本当はもっと過酷だもんね。実際にさっきからずっとう○ちの臭いの中で、こうやってお話しているしね(笑)!音楽家は舞台で演奏することが何よりの幸せだし、子供を産んで親になってもそれは変わらないよね。日々の葛藤も多いけど、自分の夢も諦めないで頑張りたいです。
水野:素敵です。今日はオープンマインドでパワフルな祐里さんのお話を聞けて本当によかったです。
前田:こんな話で大丈夫なのかな(笑)。名古屋に来たらいつかうちにも遊びにきてね!
水野:大変なこともこれから沢山あるでしょうけど、とっても勇気をもらいました。ぜひ遊びに行かせてください!ありがとうございました。
ピアニスト 前田 祐里 Yuri Maeda
3歳でピアノを、6歳より作曲を学び始め'93には国境なき医師団、ヤマハ主催、フランス パリにて開催されたジュニアオリジナルコンサートに自作曲で出演、テレビ放映。
菊里高校音楽科卒業後、ヤマハ音楽支援制度の奨学金を受け、すぐに渡独。
2009年に満場一致の最優秀の成績で卒業する。
これまでに様々な国際コンクールで入賞する他、ライン ラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団、フィリップベンダー指揮フランス、カンヌ管弦楽団、バーデンバーデンフィルハーモニックオーケストラ等と共演。
2008年にイタリア、ミラノ Teatro Dal Verme にてソロリサイタルデビュー後、イタリア、スロヴェニア、クロアチア、オーストリア、ドイツ、フランスなどでリサイタルを行う。
2013年ドイツ国家演奏家資格を取得。
2014年にNHK-FM リサイタル・ノヴァ出演。
10年のドイツ生活を経て現在名古屋に拠点を置き、演奏活動、又後進の育成にも力を注いでいる。
ニース国際ピアノコンクールを始め、様々な国内外のコンクール審査員をつとめている。
第3回ゲスト:前田祐里(ピアニスト)
インタビュアー:水野彰子(ピアニスト・SHALONE代表)
ライター:岩崎花保(フルーティスト・WEBライター)
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